MSP Compression チュートリアル 6
マルチバンド・コンプレッション 2

チュートリアルを開いて下さい。

マスタリング

様々なクオリティを持った再生装置のためのマスタリングは専門的な技術です。再生システム間のもっとも大きな違いはスピーカの低音に対するレスポンスにあります。すべての人々にとって、可聴閾の下限まで及ぶような真のレスポンスが好ましいのですが、これに対しては、物理的、あるいは経済的な制限があります。限定された予算で可能なほとんどのスピーカシステムでは、100Hz 位が最も低い周波数になり、これが、低音ドライバの共振周波数になります。スピーカが 100 Hz で共振する場合、50 Hz のシグナルは共振を励起し、55 Hz のシグナルも同様に働きます。結果として、スピーカが扱うことが可能な周波数より低いシグナルは最低音域を不明瞭にするだけです。マスタリング・エンジニアはこのことを知っているため、75Hz あたりから下のシグナルのゲインを低下させます。こうしてしまうと、良い低音レスポンスを持ったスピーカを買うためにお金を使った人には、何も得るものがなくなってしまうのではないでしょうか? これを解決するためには、非常に低い音を取り除いてしまう代わりに、これをうまくコントロールし、廉価なスピーカでうるさくなりすぎないようにしながら、良いスピーカで再生する場合にはその能力に見合ったものにする必要があります。マルチバンドコンプレッサはまさにそのためのものです。これは設定したラインを超えずに低音を完全なままに保ちます。 (これを適切に行なうためには、それに適したスピーカを使ってミキシングを行なう必要があります。そのため、ローエンドの家電量販店のスピーカから100万ドルもかかるようなレコーディングルームのYAMAHA ボックススピーカまでを見るということがよくあります。)

また、通常、最も高い周波数帯のゲインを下げるということも行なわれます。これは、高音にコンプレッサをかけることによって、アタックをはっきりしたまま保てるためです。しかし、レベルが高すぎる場合、この効果によってサウンドがあまりにも明るすぎるものになってしまいます。

omx.5band~ オブジェクトのコンプレッサは、この種の微調整を行なう機能を提供できるように、十分なきめ細かさを持った設計になっています(C6mMultibandComp5band というパッチを参照して下さい)。

4 バンドコンプレッサの機能に加え、5 バンドコンプレッサには次のような機能があります。

・バンド(帯域)が5個あります。中音域が2つに分けられ、低音域はわずかに低めに設定されています。

・各バンドごとに、個別のダウンワード・エキスパンダ(ノイズゲート)があります

・各バンドごとに、個別のスレッショルドとリミット値を設定できます。

・各バンドごとに、スレッショルドに達した場合の動作を設定するスイッチがあります。シグナルがスレッショルドを下回った場合には増幅されますが、上回った場合にはリミッタをかけるか、あるいはユニティゲインを使用するかを選択できます。

・サウンド全体に対する AGC は2つのバンドに分けられ、低いものは Bass Enhancement という名前がついています。これらは、ゆっくりと動作する回路で、コンプレッサが最も良い効果を生むように入力を保ちます。

・最も低い低音には、「ソフト」 クリッパが追加されています。これを設定すると、小さいスピーカの場合でも、レンジを下回る音によって生じる共振を取り除きません。

・「スペース・エンハンサ」。これは、完全なモノラルではないが、ほとんどモノラルのようなミックス(特にラジオの場合には、非常に一般的なスタイルです)の場合、そのチャンネルを分離させるものです。この処理は2つのシグナルがほとんど同じ場合だけに限られますが、右のシグナルから、左のシグナルをほんのわずか減じ、同様に左のシグナルから、右のシグナルを僅かに減じることによって行ないます。この処理のパラメータには、サイドシグナルと結合された(モノラルの)シグナルの差として望ましい値、差のシグナルの最大ゲイン、分離を行なう場合の変化に対する応答スピードがあります。

omx.5band~ オブジェクトのプリセットでは、、様々な種類の処理のカーブを作り出します。"Universal" に設定すると 3 : 1 の コンプレッションでリミッタを掛けない、一般的な音のブーストを行ないます。ベースエンハンスメントはやや暖かみをもたせるかどうかを切り替えます。いっぽう、"Pop" に設定すると、50 : 1 のコンプレッションになり、低い方の2つのバンドにはリミッタが強く掛けられます。これにより、サウンドの低音がしっかりした感じになります。"Hit Radio" という設定は、上の2つの妥協の産物です。この場合、アタック、リリースタイムの設定はほぼ同じですが、低いバンドでのアタックとリリースを適切に遅くしていることがわかると思います。"FM Radio" という設定は、主として高音域に違いがあります。高音域は、"Pop" や "Hit Radio" の場合に比べてやや強めのコンプレッションが設定されています。

omx.5band~ は、omx.4band~ の7倍ほど CPUを使用します。そのため、日常的な使用には向いていないかもしれません。しかし、このオブジェクトは、難しい処理であっても完璧に行なうことができます。

参照

omx.4band~

OctiMax 4-band コンプレッサ

omx.5band~ OctiMax 5-band コンプレッサ