MSP Compression チュートリアル 4
生楽器のコンプレッション

コンプレッサの構成を示すパッチ(C0mBuildingCompressor.maxpat)を開いて下さい。

コンプレッサは必要があれば、どのようなレコーディングの場面でも使用できます。レコーディング業界では、通常、ヴォーカル、ドラム、ベースにコンプレッサが使用されます。これらを試してみるために、再びC0mBuildingCompressor チュートリアルパッチを開いて、使ってみることも可能です。また、いくつかの生音による素材を用意し、omx.comp~ オブジェクトを使って独自のコンプレッサパッチを作ったり、気に入った VST-プラグインによるコンプレッサを使ったりすることもできます

ヴォーカル

ヴォーカルトラックにコンプレッサを用いることによって、より歌詞を聞き取りやすくすることができます。歌い手は、一般的に次のようなフレーズを形作ります。

これは、それ自身だけで美しく聞こえるかもしれません。しかし、通常のバンドやピアノによる伴奏とミックスされた場合、弱い音節 "oh" や "where" はマスキング(訳注:他の音によって事実上聞こえなくなってしまうこと)されてしまうでしょう。そうでなければ、Bing Crosby のような、バンドの音が隣の部屋から聞こえてくるような感じのミキシングサウンドになってしまいます。歌い手に対してこのフレーズが同じ強さになるように歌ってくれるよう要望したとしたら、歌い手はあまりに神経質になってしまい、表情が全く無くなってしまうことでしょう。しかし、ちょっとした巧妙な処理によって、歌い手たちの手助けをすることができます(訳注:Bing Crosby - ビング・クロスビー - は、マイクを用いて柔らかい声で歌う「クルーナー唱法」を確立した歌手。ここでは、オンマイクでヴォーカルを際立たせる反面、バックの演奏のレベルを下げたミキシングを指していると思われます)。

最初に適用できる処理はイコライゼーションです。トラックが適切にイコライゼーションされていれば、このトラックを最小限のコンプレッションでクリアにすることができます。ヴォーカルのイコライゼーションの場合、 2 kHz 〜 4 kHz をやや強め(3 dB 程度)ます。母音が明瞭に聞こえるように、その声にあわせて微調整を行ないます。その後、それ以外の、ヴォーカルに干渉する可能性があるすべてのトラック(例えばギターのトラック)に対し、インバース・イコライゼーション(同じ周波数を 3 dB カットします)を行ないます。これによって、スペクトル上に「窓ーウィンドウ」を作り、声の抜けを良くすることができます。この処理では、3 dB 変化させるだけで、声や、その他のソロ楽器に明らかな違いを与えているわけではありません。多くのマイクロフォンには、このようなイコライジングを使ったブーストがすでに組み込まれていますが、他のトラックをカットする必要性は依然として残っています(同じマイクを使ってレコーディングした場合にはなおさら、イコライジングによるカット処理を行なう必要があるでしょう)。

次に行なうべきことは、いくつかのコンプレッション処理を追加することです。この処理を行なう上で努力すべきことは、すべての(あるいは、ほとんどの)音節を明瞭にしながら、最大限、歌い手の抑揚を保つようにすることです。最初に、トラックをバイパスモードで再生し、メータを見て下さい。カバーされるレンジ、特に最も大きい音量になる所の値を書きとめておいて下さい。スレッショルドを最大音量のレベルの少し下にセットし、コンプレッサの効きが強くなりすぎないようにして下さい。極端な変化をおこさないようであれば、コンプレッサの動作状態から最も速く戻り、音の歪みは最も少ないでしょう。(omx.comp オブジェクトがリミッタ機能を持ったコンプレッサであることを思い出して下さい。スレッショルドを 0 に設定し、最も高い入力レベルがこれより僅かに低い位置に来るくらいまで入力レベルを上げて下さい。)

最初に、穏やかなレシオ(2 :1)で、速いアタックタイムと速いリリースタイムに設定した所から始めて下さい。メータが示す値が、フレーズのレベルを十分に平坦化したようになるまで、一般的には 12dB から 6dB の範囲以内に収まるようになるまで、レシオを上げて下さい。その後、ゆっくりとアタックタイムを上げて(アタックレートを下げて)下さい。突然、ヴォーカルが飛び出して聞こえるところがあるはずです。これが適切と感じられれば、その値を保って下さい。しかし、この設定を僅かに戻したほうが、より自然にきこえるでしょう。今度は、息の音が目立たない状態で、音が十分に保たれるようになるまでリリースタイムを上げて(リリースレートを下げて)下さい。

歌い手によっては、この手順は全体として間違っているかもしれません。必要なことは、一般的にレシオ、アタック、リリースが声に対してどのように作用するかを学ぶことです。それがわかれば、聞いているサウンドに対して適切な処理を行なうことができます。気をつけておくべき状況を次に挙げておきます。

・音をのばさない歌い手には、リリースタイムを短くしたほうがよいでしょう。リリースタイムを短くすると、ギターのサスティンペダルのような効果を生みます。この場合、omx.comp~ では、ゲート処理のスレッショルド、あるいは プログレッシブ・リリース(progressiveRelease)のパラメータを調節する必要があるかもしれません。

・歌い手によっては、特定の音節が強くなることがあります。このようなときこそ、omx.comp~ オブジェックトが力を発揮します。この場合フレーズが同じ強さになるようにスレッショルドを下げるだけで効果があります。それ以外のデバイスでは、第2のリミッタを接続する必要があるかもしれません。

・歌い手とマイクロフォンの組み合わせによって歯擦音が強調される場合があります。コンプレッサの中には測定回路の中で高音成分を強める「ディエッセンス」機能を持ったものもあり、「ヒスノイズ」のような性質の音によって、より強くゲインリダクション(ゲインの低減)が動作するようになります。omx.4band~ オブジェクトでは、この機能が利用できます。

ベース

ベース奏者は、彼らの楽器の演奏自体においてさえ、音を同じ強さに保つために苦労しなければなりません。その理由の1つは、フレットを押さえたときの音より、解放弦の音のほうがより響きやすいということにあります。この問題にはアンプも一役買っています。そして、ラウドスピーカのコーンの近くにマイクをセットして録音することによって生じる未知の要素が加わった場合、レベルが広範囲にわたってしまう可能性があります。このようなとき、コンプレッサが助けになります。コンプレッサをかける度合いは、個々の奏者によって変化しますが、一般的には、あまりかけすぎないようにしなければなりません。ロックの場合、低音を強固に保っておく必要性が高いでしょう。音のアタックは、楽曲のスタイルによって異なります。ジャズベースでは滑らかな音が必要とされるため、速いアタックが使用されますが、ヒップホップの場合には、ベースはほとんどパーカッションの一部と考えてよいでしょう。アタックタイムを遅くするとパンチの効いたサウンドになります。リリースを遅くして音をのばすことは避けて下さい。そうでないと、サウンドが濁ってしまいます。

ドラムス

ドラムセットの録音にオーバーヘッド(頭上)のマイクだけを使っている場合、必要なのはリミッタ処理だけです。その理由は、シンバルの音にコンプレッサをかけると、通常、不快なサウンドになってしまうためです。スネアのヘッド音がデッド(余韻の少ない響き)である場合やスネア線の音を多めに欲しい場合、スネア用のマイクの音にコンプレッサをかけるとよいでしょう。しかし、より効果的なアプローチは、高いスレッショルドによるゲート処理です。ほとんどのスネアの音がオーバーヘッドマイクから来る場合でも、スネア用マイクの打撃音は僅かに早く生じ、リズムにパリッとした感じの音を加えます。ゲートはミックスされたサウンドにハイハットからの音が漏れ出ることを防ぎます。omx.comp~ オブジェクトでゲート処理を行なうためには、AGC ではなくノイズゲートを有効にして下さい。

キックドラムの処理は、それだけで本の1章が必要なほど複雑なものです。一般的に、パンチの効いた音と重みのある音との間での適切なバランスを見つけることを試みて下さい。コンプレッサは、打撃音を保ち、平均化しながら、共振音を抑えるために使用されます。この場合、遅いアタックが使用され、コンプレッションの度合いはドラムからの共振音の長さによって判断されます。

多くの場合、ドラマーがキックドラムで行なっている未知の状況を補なうことによって、音が他のトラックに漏れ出さないようにいろいろ試してみることになるでしょう。荒々しいバスドラムは非常に共振時間が長く、至る所に非常に低い周波数をもたらします。そのため、ヘッドを取り外したり、穴をあけたり、そして様々なミュートが施されたりしているキックドラムをよく目にすることと思います。(最近、レコーディングしたものの1つには、10 ポンドの枕が使われていました)。結果として生じる音をうまく表現しようとすれば "phlub(プブ")" というような感じです。一般的なうまい方法の1つに、ゲートリバーブの使用があります。これは、ドラムにかなり分厚いリバーブを適用し、これを外部のゲートを使用するように設定されたコンプレッサに通すものです。ゲートは未処理のドラム音によってコントロールされるため、多くの残響音を得ることができますが、この残響音は通常のリバーブのように小さくなりません。リバーブの中にはゲートリバーブの設定を持っているものもありますが、エフェクトのコントロールはわずかにしかできません。

参照

omx.comp~ テーブルルックアップ・オシレータ
omx.4band~ オーディオの出力、およびオン/オフ