MSP Compression チュートリアル 2
基本的なコンプレッション

チュートリアルパッチを開いて下さい。

C2mBasicCompression パッチは、omx.comp~ オブジェクトのコンプレッサセクションの機能をいくつか実例で紹介しています。このオブジェクトはブロードキャストタイプのコンプレッサとリミッタの機能を持っています。このパッチのシグナルソースは stepone サブパッチの中にあります。このシグナルソースは 6 dB のステップで大きくなったり小さくなったりする音による簡単なパターンを生成します。シグナルのレベルは input と表示された メータに表示されます。コンプレッサをバイパスすると、何の処理も行なわれないパターンが聞こえます。bypass というチェックボックスのチェックを外すと、コンプレッサを動作させながら、その処理の結果を聞くことができます。

スレッショルド

パッチを開いたときの設定では、コンプレッサはすべての音をほとんど変わらないレベルで出力するようになっています。スレッショルドを操作すると、レベルが変化することがわかるでしょう。中央のメータはコンプレッサの内部の動作を示しています。ゲインが下がるとバーが下に移動します。

良いスピーカで聴くことができれば、最も大きい音ではステップ音ジェネレータからの音にわずかな歪みが生じていることに気がつくでしょう。コンプレッサの動作中にスレッショルドをどのような値に設定しても、この歪みは同じ音で聞こえます。このことから得られる教訓は次のようなものです。すなわち、コンプレッサはそれ以前のレコーディング処理で生じた問題を解決することはできないということです。

レシオ

極端な設定から、徐々にレシオを下げていくと、入力値がスレッショルドを下回った場合に、出力レベルが変化し始めることに気がつくでしょう。(スレッショルドを超えるシグナルは依然としてリミッタをかけられています)。
1 : 1 のレシオでは、出力は入力と同じになります。最も役に立つレシオの設定は、通常 2 : 1 から 5 : 1 です。この場合、ある程度フレーズの形が維持されます。実際のシグナルのコンプレッサ処理を始めると、このことが理解できると思います。

シグナルの増幅には、事実上の限界があります。ある特定の点を下回ると、行なおうとしている処理がすべてノイズの増加をもたらしてしまいます。omx.comp~ では、この限界を 36 dB から 0 dB の間で調整することが可能です。この範囲の調整が tweak と書かれたサブパッチの中で行なわれていることがわかるでしょう。このサブパッチには omx.comp オブジェクトのいくつかの(決してすべてではありません)特別なパラメータがあります。ハードウェアの場合、通常これらは内部で調整されます。

アタック

スレッショルド を -10 に、レシオをおよそ 20 : 1 に設定して下さい。音のアタック部分を注意深く聞いてみて下さい。これを、バイパスされた原音と聞き比べて下さい。何やら、コンプレッサが音のパーカッシブな要素を強調しているように感じられます。アタックレート の値を少し小さくしてみて下さい(これは、アタックタイムを増加させることと同じです)。サウンドが、それまでより「ポン」と跳ねるように聞こえるでしょう。実際、アタックレート(アタックの速さ)が遅すぎると、ひどく歪んで聞こえます。これはなぜでしょうか?サウンドの最初の部分では、シグナルがないため、コンプレッサは可能な限り増幅をしようとします。サウンドレベルが、コンプレッサの応答時間より速く増加すると、内部のゲインは短時間誤ったモードに陥ってしまい、減少させなければならない音を増幅させてしまいます。これにより、パーカッション効果が強調されます。このような設定は、業界では「パンチング」と呼ばれ、多くの場合、バンドのサウンドを殺さずにより強いビート感を与えるために、キックドラムに適用されます。この効果は、tweaks サブパッチで見られるような、やや繊細なディレイパラメータの使用によって得ることができます。ディレイコントロールは、レベル検出回路に送るシグナルを遅延させるものです。当然ながら、スレッショルドとレシオはこの効果に強い影響を及ぼします。

これに影響を与えるもう1つの設定に、「smoothGain」と呼ばれるものがあります。ゲイン・スムージングは、ゲインコントロールにエンベロープを適用します。ゲイン・スムージングを 0 に設定すると、その理由を直ちに耳で確かめることができるでしょう。ゲインは、実際には段階的に変化するため、ジッパのようなノイズが生じます。ゲイン・スムージングは、アタックの速さとリリースの速さに対して、同様に影響を与えます。

リリース

ステップ音のジェネレータはまた、持続する低いピッチのドローン音を -30 dB で生成します。ステップ音を生成しながらこれをオンにすると、リリースレートが及ぼす効果を聴くことができます。ステップ音がスレッショルドを超えると、ドローン音が消えてしまうことに注意して下さい。コンプレッサはシグナル全体のレベルを低下させるため、これは予想通りの結果と言えます。実際、ゲインメータに注目すると、メータが明らかにドローンのレベルを表示していることに気がつくでしょう。消えてしまったドローン音が再び聞こえるようになるようすをよく聴いて下さい。コンプレッションの効果が減少するにつれて、ドローン音が徐々に聞こえるようになります。それでは、レシオの値を上げてみて下さい。ドローン音はステップ音とステップ音の間でより強くなり、ポンピング効果(レベルが急激に上下するような効果)がより明白になります。リリースタイムを操作すると、面白い効果を得ることができます。リリースタイムが非常に短いと、ドローン音のポンピングはとても顕著になります。しかし、リリースタイムが長すぎると、ステップ音はあまり大きくならず、入力と同期するような感じはなくなります。リリースタイムを最も長く設定すると、ドローン音は完全に聞こえなくなります。

ポンピングは、バックグラウンドノイズをより耳障りなものにし、ボーカルのリバーブやギターのサスティンに影響を及ぼす可能性があります。持続する楽器音と低い周波数を持つ楽器音がミックスされている場合、このポンピング効果はさらに悪い結果をもたらします。これは、低音域のシグナルが高音域のシグナルと同じ大きさに「聞こえる」ためには、より強くなければならないためです。結果として、かなりソフトなベース音でさえ、ピアノの音に影響を及ぼしてしまいます。swap というトグルをオンにすると、この効果を聴くことができます。このトグルは、ステップ音を低い周波数に、持続音を高い周波数にするものです。

omx.comp~ オブジェクトは、この問題を解決するために、低音のシグナルを分離して別に取り扱います。tweaks サブパッチの中の dualBandEnable 1 というメッセージはこの機能をオンにするものです。デュアルバンドが有効になっている場合、メインのバンドでは、低音のシグナルによる効果は小さくなります(これを表示するために、ゲインのインジケータは2つのセクションに分けられています)。この場合でも、中音域の周波数を持つシグナルによって、低音のレベルがコントロールされている点に注意して下さい。ベースだけが録音されたトラックにコンプレッサを適用して、ベースの解放弦のレゾナンスをコントロールしたり、音の立ち上がりにわずかなパンチを効かせたりすることがよくあります。このような場合には、デュアルモードを使用しないほうが良いでしょう。

参照

omx.comp~ OctiMax コンプレッサ