チュートリアル 9:シンセシス
振幅変調(AM)

リングモジュレーションと振幅変調(AM)

振幅変調(AM)とは、「キャリア」シグナルの振幅を他の「モジュレータ」シグナルの出力を使って変調することを意味します。AMの特定のケースであるリングモジュレーション(チュートリアル8で検討されたもの)の場合、2つのシグナルは単に掛け合わされます。より一般的なケースではモジュレータはキャリアの振幅を変えるために使われますが、それは唯一の決定要因ではありません。別の方法によって、モジュレータは0以外のある値の周囲での振幅の変動を引き起こすことができます。下の例は、リングモジュレーションと、より一般的な振幅変調(AM)の違いを図示しています。


     リングモジュレーション        振幅変調(AM)   

左の例は、4Hzのコサイン波を掛け合わされた100Hzのコサイン波の1/4秒間の様子です。両方のコサインの振幅は1です。右の例では、4Hzのコサインは振幅0.25を持ちますが、それは0.75を中心として100Hzの音の振幅を+/-0.25(低いところは0.5まで、高いところは1.0まで)変更するために使用されます。2つの主な違いは、

  1. AMの例では、リングモジュレーションと違って、全体を通して振幅は0になりません。

  2. リングモジュレーションでは、モジュレーション周期あたり2回の振幅の減少(モジュレーションレートにつき2回トレモロ効果を作る)として知覚されますが、AMではモジュレーション周期あたり1回のコサインによる変動として知覚されます。

これらの例を作った2つのMSPパッチを下に示します。


リングモジュレーション          振幅変調(AM)     

効果の違いは、AMパッチにある0.75の定数値によるのもので、ここでは、より小さい振幅のモジュレータによって変動させられています。この定数値はキャリアの振幅として考えることができ、モジュレータの瞬間瞬間の振幅によって変更されています。振幅は、やはりモジュレータの波形によって変更されますが、モジュレータは0を中心としてはいません。

技術的な詳細:波形が0からオフセットされる量は、DCオフセットと呼ばれています。このような定数の振幅値は周波数0Hzでのスペクトルのエネルギーを表しています。AMのモジュレータはDCオフセットを持っていて、この点でリングモジュレーションと区別されます。

MSPでのAMの実装

チュートリアルパッチでは、モジュレータのDC オフセットは、常に1からそのサイン波の振幅を引いた値になるように設計されています。この方法では、モジュレータの振幅のピークは常に1になるため、キャリアとモジュレータの積はいつも1になります。それぞれの *~ オブジェクトはサウンド全体の振幅をコントロールするために用いられています。



キャリアと掛け合わせられるモジュレータはDCオフセットを持ったサイン波です

ezdac~ をクリックして、オーディオをオンにして下さい。トレモロの速さがモジュレータの周波数と同じであることに注意して下さい。メッセージボックス 248をクリックして、様々なトレモロの速さを順番に聞いてみて下さい。

いろいろなAM効果の実現

AMの主なメリットは、モジュレータの振幅を変えることによって効果の強さを変更することができる点です。

・ "Tremolo Depth" と書かれたナンバー・ボックスに、値0.03を入力して、ごくわずかなトレモロ効果を聞いて下さい。モジュレータは0.97を中心として、1から0.94まで、ほぼ1/2dBの振幅を変化を作り出します。Tremolo Depthを0.5に変更して、極端なトレモロ効果を聞いて下さい。この場合モジュレータは1から0まで(可能なモジュレーションの最大)変化します。

振幅変調(AM)では、側波帯(キャリアにも、モジュレータにも含まれない付加的な周波数)を生じますが、この周波数は、キャリアとモジュレータに存在する周波数の和と差の値になります。モジュレータにDC オフセット(0Hzでのエネルギー)があると、キャリア音は(リングモジュレーションによる場合とは異なり)アウトプット中にも存在したままになります。

・ 順番に、3250100150 という値のメッセージボックスをクリックして下さい。キャリア周波数、モジュレータ周波数(ここでは、オーディオ領域の下端にあります)、そして和および差による周波数が聞こえるでしょう。

キャリアとモジュレータが倍音関係にある時、作り出される周波数は共通の基音の倍音列に属するものになり、一つの複合音として融合する傾向が強くなります。例えば、キャリア周波数が1000Hz、モジュレータ周波数が250Hzのとき、250Hz、750Hz、1000Hz、1250Hz(これは250Hzを基音(基本周波数)とする、第1、第3、第4、第5倍音(高調波成分)になります。)の周波数の音が聞こえます。

200250500 という値のメッセージボックスをクリックして、倍音による複合音を順番に聞いて下さい。"Tremolo Depth" ナンバーボックス上でドラッグし、0.0と0.5の間でデプスの値を変更して、側帯波の相対的な強さの変化による効果を聞いて下さい。

・ナンバー・ボックスの値を変更して、様々な可能性を調べてみて下さい。終わったら、ezadc~ をクリックして、オーディオをオフにして下さい。

どのようなオーディオシグナルでもキャリア音やモジュレータ音として使用できるということは、注目に値します。実際に、複合音による振幅変調(AM)は多くの面白い結果を得ることができます。(チュートリアル22では、コンピュータに取り込んだサウンドに対して振幅変調を行います。)

まとめ

オーディオシグナル(キャリア)の振幅は、他のシグナル(モジュレータ)によって変調(モジュレート)することができます。これには、単純な掛け合わせによる方法(リングモジュレーション)や、定数シグナル(DCオフセット)に時間変化シグナル(時間によって変化するシグナル)を加えたものを、キャリアシグナルに掛け合わせる方法(AMー 振幅変調)があります。振幅変調の強さは、時間軸上で変化する、モジュレータのDCオフセットに対する相対的な振幅の増減によってコントロールできます。モジュレータがDCオフセットを持っている場合、キャリア周波数は、キャリアとモジュレータの周波数の和と差によって決定される側波帯と共に、出力されるサウンドの中に存在し続けます。サブオーディオ(可聴閾未満)のモジュレート周波数では、振幅変調はトレモロとして聞こえます。オーディオ(可聴閾)周波数では、キャリア、モジュレータ、側波帯のすべてが和音として、または複合音として聞こえます。